■ リノベーションとは何か
■ リノベーションの始まり 2004年
2004年3月、築40年の『山王マンション』(福岡県福岡市博多区)のリノベーションを3室設計させていただくことになりました。
『山王マンション』は、㈲吉原住宅さんが所有/管理している物件であり、オーナーである吉原さんとの出会いから、このプロジェクトは始まりました。このときは2008年の現在まで発展し続けるようなプロジェクトになるとは思いませんでした。
2004年・初めてのリノベーション 山王マンション
→ 2005年・2回目のリノベーション 新高砂マンション
→ 2007年・3回目のリノベーション 山王マンション
→ 2008年・大規模改修 新高砂マンション
→ 2007年~・NPO法人ビルストック研究会
→ ・・・
というように、未だに発展途中であるプロジェクトです。
■ リノベーションとは何か 01
リノベーションとは何か 01
■ リノベーションの始まり
2004年3月、築40年の『山王マンション』(福岡県福岡市博多区)のリノベーションを3室設計させていただくことになりました。
『山王マンション』は、㈲吉原住宅さんが所有/管理している物件であり、オーナーである吉原さんとの出会いから、このプロジェクトは始まりました。このときは2008年の現在まで発展し続けるようなプロジェクトになるとは思いませんでした。
2004年・初めてのリノベーション 山王マンション
→ 2005年・2回目のリノベーション 新高砂マンション
→ 2007年・3回目のリノベーション 山王マンション
→ 2008年・大規模改修 新高砂マンション
→ 2007年~・NPO法人ビルストック研究会
→ ・・・
というように、未だに発展途中であるプロジェクトです。
■ 2004年、㈲吉原住宅+信濃設計研究所 コラボレーションプロジェクト
このときは、まだリノベーションという言葉は一般化していませんでした。吉原さんとの打ち合わせの中で、今までのリフォームの枠の中では納まらない内容のコンセプトであるプロジェクトであるために、どのように進めていくのか試行錯誤していく中、次のようなことを考えました。
○ リフォームとは異なる新しい考え方、つまり「再生」を意図した改装であることを、プロジェクトコンセプトにする。
○ 言葉としては「リファイン」を使い、一般の方々にも分かりやすいようにする。
■ 「再生」 - 老朽物件の現状
多くの老朽物件は、次のような経緯をたどっていきます。
(はたして築何年から老朽物件となるのでしょうか?もしかすると10年すぎるとこういってもよい状況になっている物件もあるようです。)
○ 新築~ 入居率が高く、計画どおりの収益
○ 10年~ 徐々に入居率が悪くなってくる。補修箇所が出てくる。
○ 20年~ 入居率を高めるために対処。リフォーム、家賃を下げるなど。補修場所、回数も徐々に増え、補修費がかさみ始める。
○ 30年~ 第1回目の大規模改修時期。入居率の対応、改修費用の捻出など、頭の痛い事項がのしかかってくる。
○ 40年~ 無計画に来た場合、物件として立ち直るのは難しい時期。家賃収入、入居率は下がり、改修費が莫大にかかる中で、何をすればよいのかわからない状況。
『山王マンション』は築40年であり、上記と似たような状況でした。このような状況を打開するために、単なる部屋をきれいにするリフォームではない、「再生」を意図したプロジェクトを立ち上げたわけです。
2004年はじめ、吉原さんといっしょに山王マンションを見学させていただきました。
60年代の時代表現である重厚な外観、反して、生活感あふれる中庭、40年という年をとった公団仕様の和風の部屋、そして、前年に他の方のデザインのリノベした部屋が2室が、異質に輝いていました。
次回へ続く・・・
■ リノベーションとは何か 02
リノベーションとは何か 02
■ 山王マンションを吉原さんといっしょに視察に行きました。外観を一目見た時、この建物の特殊性を感じました。配置はコの字配置、バルコニーはありませんでした。これは、視察というよりも探検に近いような感覚でした。
次々に現れる40年前の素材とデザイン・・・。そして、前年に改装した部屋へ。下記の文章は、その当時に書き上げ、吉原住宅さんに提出した視察報告書です。
■ 『山王マンション』視察報告書 - 2004.02.24
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| 1967 山王マンション | 1960 天神ビル |
○ 外観・中庭
これはオフィスビルではないのだろうか? 時代を感じさせるタイル・・・これは「福岡天神ビル」 (1960) と同時代のタイルだ。水平横長窓、バルコニーはない。1Fは店舗・・・やはり、オフィスビルといってもいいような外観。車が駐車場に入ってゆく・・・中庭だ。廊下が中庭に面してあり、南に面したところは部屋となっている。廊下には物干しロープがはられている。これは、まさに集合住宅。
中庭を中心としたコの字型プラン、片廊下型、都市の中にも快適な居住空間を作ることを意図した都市型集合住宅の典型的な配置。中庭に面した片廊下は、外観とはまるで違い、居住者の生活感があふれている。外側はオフィス風のすました外観、内側の中庭は居住空間としての人間くささのあふれた空間、つまり、生きた空間となって、建築と人との密接な関係を教えてくれている。吉原さんにお伺いしたところ、この建物は1965年の完成ということで、私と同じ年の建物だったのだ。あらためて「時間と建築」について考えさせられた。建物の完成から39年後、21世紀の現在、果たしてこの建物の設計者は、どのような21世紀の街並み、都市、そして、日本を想像していたのだろうか?
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| 1967 山王マンション:中庭 |
○ 1階から廊下へ
中庭からいったん外に出て1階まわりを見てみると、昔ながらの質感・光沢をはなつアルミサッシ、角が丸められた足もとまわりにはモザイクタイルが張られている。現在、リバイバルで、はやっているデザインだ。入り口から中へ、エレベーターの動きも時代を感じる。廊下には配管が露出し手摺の鉄は錆が出ているが、21世紀の現在において、感覚は逆転し「時間」のみが造ることのできる熟成された無機質素材が、現代アート空間をつくりあげている。
当時のままの看板
○ リファインされた室内へ
重厚な鉄の扉を開けて中へ、天井が張られておらず白ペンキが塗られている。狭い幅のガタガタが連続する天井、これは・・・床スラブは今ではほとんど見られない小幅板のコンクリート型枠で造られていたのだ。可塑性というコンクリートの性質を利用した、適度に暴れた型板の小幅板が醸し出す彫刻的な表情が、今回のリファインにより、21世紀の今、よみがえった。床は無垢のパインフローリング。フシのある無垢のパイン素材は表情あふれる天井に負けず劣らず存在を主張している。壁はクロスではなく塗装なのがうれしい。室内建具はポリカーボネイトのツインカーボ、細いアルミ枠でシャープに納まっている。素材の存在感を表現している上下の水平面(天井と床)を、現代を代表する素材であり半透明の軽いポリカのツインカーボが屏風のように空間を分割している。コンクリート・木・ポリカーボネイト、という時代を超えた、全く性質の異なる素材が、主張し、そして、調和し、現代を表現した室内空間を造り上げている。
○ 空間分割
ワンルームを基本にした空間構成で、ポリカの引き戸と、キャスター付の収納で空間を分割して使用するという考え方の間取り。様々な利用方法に対応できるとともに、狭さを感じさせない方法でもある。素材そのものを生かした壁・床・天井は、存在を主張しながらも「背景」となり、どのような家具をおいても絵になる。選定されたモデルルームの家具はノスタルジーを意識した、モダンなデザインとなり、「未来」を感じさせる。「未来」を最も表現したのが20世紀であり、60年代がその頂点であったといってもよい。現在ではその「未来」が「ノスタルジー」となるという相反する意味・感覚となっている。
○ リファイン → 新しい賃貸マンション文化の創造
今回の「山王マンション」を見学させていただき、新たな可能性を見つけだすことができました。現在の主流である日本の「賃部屋文化」は、素材感を排除したフェイク空間となっています。それは、敷金・礼金システムと、入室時には新しくきれいな部屋でなければ借り手がつかない、という国民性などが、主な原因となっています。素材を大切にしてきた日本の伝統は否定され、「表面的なきれいさ」が求められました。しかし、21世紀に入り、感覚の逆転をもたらしました。今回の「山王マンション」がその一例です。それぞれの素材感を最大限に生かした材料の利用と、ワンルームを基本とした、使い方を制限することなく楽しめる間取りが、借り手にも受け入れられる時代となったのです。
貸し手と借り手との契約内容=「ソフト」と、デザイン・施工=「ハード」が、一つのシステムとして成立するとき、いわゆる「新しい賃貸マンション文化の創造」が実現することになります。
次回へ続く・・・
■ リノベーションとは何か 03
■ 探求の始まり
築40年の『山王マンション』は、明らかに近年建てられたマンションとは異なっていました。当然ですが、そこには、昭和40年・1965年があったわけですが、その重要性に、まだ気づいていませんでした。
壁のモルタルははがれ落ち、コンクリートにはヒビ、錆びたスチール手摺、欠けている笠木・・・。
漆喰で固められたスチール枠のガラス、重いスチールの玄関ドア、壁のキッチン換気扇、廊下に露出している配管・・・。
古びたタイル、テラゾー、Pタイル、スチール製作サッシ・・・。
和風の部屋、地袋、障子、畳、襖、モルタル+塗装の壁、和風便器、バランス釜・・・。
一般的な見解として、「朽ち果てかかっている 老朽化した築40年の建築物」、という表現があてはまるのでしょうが、建築について考えてきたものとしては、この建物から受ける印象に特別なものを感じ取りました。
なぜ、特別の印象を受けたのか・・・? それはいったい何なのか・・・? とにかく、その答えを見つけたくなり、探求が始まりました。
■ 元設計者は何を考え設計したのか?
この『山王マンション』を見ているうちに、だんだん元設計者の意図を感じるようになってきました。
設計やデザインというものは、意識的にせよ、無意識にせよ、考え方ていることが現れます。多くの建築に携わるようになるとそれが、(設計者の意図と合っている、合っていないとは別に)、自分の中で感じ取れるようになります。野球の解説で、解説者が投手やバッターの心理状態を手にとるように説明しているように、なぜ、そのような設計・デザインにしたのか、意図を感じ取れるようになるわけです。
また、現場を多く見てくると、工事中の姿も想像できるようになります。当時の工事はどのように行われたのか・・・どのような職人さんが、どのような工法で、一つ一つ造り上げていったのだろうか?
そして、完成後、どのような人達が、どのような思いで、この新築の『山王マンション』に移り住み、どのような生活をしていたのだろう?そもそも、40年前、この地域はどのような町で、社会はどのような状況だったのだろうか・・・興味は一つの建物からどんどん拡張し、当時の社会へと広がっていきました。
そうだ、40年前の日本を調べてみよう。リノベーションの取りかかりとしてそこから始めてみよう。
(*現在、私も建築設計をやっていますが、今、生きている社会の中で活動している限り、現在の社会の影響を多大に受けています。社会の中で生きている限り、時代性を何かしら受けています。そのことは築40年の建物の調査によって強く認識するようになりました。)
次回へ続く・・・。
■ リノベーションとは何か 04
■ 昭和40年・1965年
「山王マンション」完成。
(RC6階建、1Fテナント、2~6F賃貸マンション)
現在の山王マンション周辺は、中小企業の事務所やマンションなど中層の建物が並ぶ街並みとなっています。しかし、昭和40年・1965年に山王マンションが完成した頃は、周辺は木造2階建ての建物ばかりでした。天神の(当時では)高層建築である「天神ビル」や「福ビル」などが山王マンションから見え、さらに遠景では海が見えたそうです。
それを考えると、山王マンション完成が、当時いかに社会的にも大きな出来事であったかが想像できます。当時珍しかったエレベータを、わざわざ遠くから乗りに来た人もいたという逸話が残っているのもうなずけます。エレベータを完備しているように、設備的にも最新の設備を完備していました。電話は交換機室があり、交換師がいて電話を繋いでいました。当時は各部屋には洗濯機置き場がないために、洗濯スペースが設置され、屋上は物干しスペースがありました。そこは住民同士のコミュニケーションスペースになっていました。1Fテナントには銀行が入っていたことからもわかるように、社会的ステータスをもった高級賃貸マンションであったことがわかります。そう考えると、このマンションは、当時最先端のアーバンライフを夢見ていた人々が集い、日々あこがれのマンションライフを満喫していたことが想像できます。
築40年を過ぎたこの建物を、多くの方々といっしょに見学してきましたが、完成当時、輝かしい新時代の到来を示したアーバンライフを満喫している生き生きとした人々の生活を想像できた方が何人いたでしょうか?表面的に見れば、単なる築40年の老朽物件でしかなく、いくら家賃が安くても住みたくない物件であったことと思います。
リノベーションを考えていくうちに、そういった、輝かしい時代の残像が、人々の活気が、建物に対するあこがれが、単なる朽ち果てそうな老朽ビルではない、何か特別な感覚を与えてくれたのではないかと思うようになりました。それは、例えば、錆びてとれそうなスチールの手摺が、単なる古くボロイ手摺という、建物の機能の一部である「手摺」ではなく、「オブジェ」として見えた瞬間、全く異なる感覚に変化、「表現」(=アート)として見えてくるように、視点の変化が価値の転換をもたらしたわけです。
そして、敏感な一部の若者達が、その「特別な感覚」を感じ取り、価値あるものして位置づけるようになりました。
古い建物に「特別な感覚」を感じ取り、「価値あるもの」して位置づけること・・・「価値の転換」・・・そういった敏感な人達が出現してきたことが、リノベーション市場成立の大きな理由の一つとなりました。
次回へ続く・・・。
■ リノベーションとは何か 05
■ 60年代
60年代半ば「山王マンション」は完成しましたが、はたして60年代とはどういった時代であったのでしょうか?沸々と興味がわいてきました。その 頃、ちょうど日本では「ミッドセンチュリー」という言葉が流行っており、家具、家電、ファッションなどでリバイバル現象が起きていました。レトロ、フュー チャーなど、ノスタルジーを感じさせる懐かしい感じと何か怪しげな感じが、若者達に新しいものとして写っていたのです。
家具・小物などインテリアへの関心が高まり、思いもしなかった、イームズを代表とする建築家の椅子が一般的に認知されていきました。
・・・これは、リノベーション出現と無関係ではない、と感じ始めました。
○ インテリアブーム
21世紀の到来は、日本に信じられないほどのインテリアブームをもたらしました。これは戦後、服飾中心のファッション雑誌等が創り上げてきた日本のファッ ション文化が成熟し、ついには服飾から飛び出し小物から家具、そしてインテリアへと派生してきた結果だと思います。バブルで満ち足りた物質文明が否定さ れ、表面的ファッションだけでは飽きたらず、生き方を含めた生活全体をデザインしてゆく、つまり「自分のライフスタイルの確立」という文化へと成長したわ けです。現在では、インテリアから建築、そして、街並みへと意識が拡大しています。意識の拡大は、きれいな街並みをも実現させています。
私はインテリアブームが、最も人間にとって身近な服飾ファッションから、意識が広がっていった現象ではないかと思い、上記のような文章を思いつきま した。事実、この現象がリノベーションルームの認知とともに需要へと繋がっている一つの要因となっています。私はこれが街並み、そして、まちづくりへと、 早く空間認識が拡張されていってほしいと思っていますが、まだ数十年かかるかもしれません。
次回へ続く・・・。
■ リノベーションとは何か 06
■ 60年代 おもしろかった魅惑の時代
□ 1960年(S35)
所得倍増計画を決定 → 高度経済成長を国家戦略とする
新安保条約自民単独可決 → 空前の大規模国会デモ(17万人)
インスタントラーメン、インスタントコーヒー、カラーテレビ本放送開始、ダッコちゃん
□ 1961年(S36)
ヴォストーク1号(ソ連)地球1周有人飛行
韓国軍事クーデター
『ウエストサイド物語』『上を向いて歩こう』
□ 1962年(S37)
キューバ危機、YS-11初飛行
東京世界初の1000万都市
大都市住宅難(日本住宅公団競争率52.5倍)
□ 1963年(S38)
ケネディー大統領暗殺
ボーリング人気、『鉄腕アトム』、『竜馬がゆく』
『宇宙船地球号操縦マニュアル』
□ 1964年(S39)
第18回オリンピック東京大会
ベトナム反戦集会
□ 1965年(S40)
米軍ベトナム北爆開始
いざなぎ景気始まる
□ 1966年(S41)
文化大革命、初の月面軟着陸
人口1億人を突破、交通戦争、新三種の神器(3C)
ザ・ビートルズ来日
□ 1967年(S42)
佐藤首相、非核三原則
EC成立、ツイッギー来日(ミニスカート大流行)
□ 1968年(S43)
GNP世界第2位
5月革命(パリ)、プラハの春
3億円事件、霞ヶ関ビル、『巨人の星』
川端康成ノーベル文学賞
□ 1969年(S44)
新全国総合開発計画、東大安田講堂封鎖解除
東名高速道路全通
アポロ11号有人月面着陸、ウッドストック
反戦フォーク・集会、『8時だヨ!全員集合』
□ 1970年(S45)
日本万国博覧会(大阪)、よど号ハイジャック
■ 高度経済成長が国家戦略となり、GNPも世界第2位となります。
新三種の神器、インスタン食品も発売され、大量生産・大量消費へ突入していきます。
建物は寿命30年でスクラップ&ビルドしてゆけばよいという考え方が一般的になっている時代でした。
米ソによるのイデオロギー闘争に世界中が巻き込まれている中、「宇宙船地球号」というイデオロギー闘争を乗り越えようとする概念が提唱されています。
現在、「環境」という世界共通概念により、大量生産・大量消費の見直し、スクラップ&ビルドの見直しが行われています。日本では、TV番組のおかげで「宇 宙船地球号」という言葉は未だに活きています。「環境問題」のおかげで、日本から遠く離れた地球のどこかで起きている環境変化が、自分たちの日常生活の環 境問題と繋がって考えてイメージできる時代になりました。
日本の生活リノベーションが起きています。
次回へ続く・・・。
■ リノベーションとは何か 07
■ 「時代」
築40年、山王マンションは40年生き続けてきました。
前回見たように、完成当時60年代半ば、オリンピックもアジアで始めて行い高度経済成長真っ只中。戦後日本は青春時代を向かえ輝かしい未来をみんな で夢見ていました。木造の建物が建ち並ぶ街並みに突如現れた鉄筋コンクリート6階建ての賃貸マンション、重厚感溢れる外壁タイル、エレベータ付き、電話交 換室を備え、1階には銀行が入っているという、高級感あふれる未来の豊かなアーバンライフを連想させる山王マンションには、それにふさわしい輝いた人達が 住民となっていました。たぶんその頃は、いつまでもこの輝きを永遠に保ち続けるに違いないと思っていたと思います。21世紀の世界はいったいどのような豊 かな世界が実現されているのだろうか・・・。 オーナーも、住民も、設計者も、施工者も、みんなそう思っていたのではないでしょうか?。
しかし、「時代」は確実に過ぎていき、予想に反してその輝きは徐々に失われ、手が入れられないまま老朽化、21世紀を迎えました。
この 「時代」 を考えること、これがリノベーションを考えることに間違いない。
次回へ続く・・・。
■ リノベーションとは何か 08
■ 設計開始
まだリノベーションという言葉が一般化していなかった2004年。福岡で本格的なリノベーション時代の到来を告げうるような賃貸ルームデザインを目指して、吉原住宅㈲の吉原さんと試行錯誤しながら進んできた結果、次第にコンセプトが固まってきました。やっと設計作業に入ることができます。
しかし、いったい何を表現すればリノベーション時代の到来を告げることができるのでしょうか?
■ 敷地
「敷地」といってもリノベーションの場合のそれは現況状態(リノベーション前の状態)を表します。
山王マンション 402号室、502号室、603号室 が今回のリノベーションする部屋=敷地です。
● 敷地(部屋)特性
大きさ 2DK 38m2
バルコニーがない → 洗濯物を干す場がない、エアコン室外機置き場がない
和風便器
在来工法の浴室
洗濯機置場がない
公団仕様和風、建具高さ6尺(H=1800)
今まで様々な物件を見てきましたが、これらは、60年代のマンションの共通の特徴といって良いです。これらの特徴は、マイナスの評価となっていたた めに、新しさ・綺麗さを追求してくる中、これらの特徴を消してゆくような物件づくりに邁進してきた結果、現状のマンション仕様に行き着いています。
しかし、前回、リノベーションとは「時代」を考えることであると述べました。
これらの特徴をただ単に消し去ってゆくのではなく、一つ一つ検討してゆき、リノベーションの内容を決めてゆきました。
● リノベーション計画案策定
間取り 2DK→1LDK(ワンルーム)
バルコニーがない → 室内物干し場の設置、窓付きエアコンの利用
和風便器 → 洋風便器に変更
在来工法の浴室 → ユニットではなく在来工法でリノベ
洗濯機置場無し → 洗濯機置き場の新設
公団仕様和風 → ここの部屋で検討
以上がリノベーションを進める上での機能的な変更点です。さらに、素材について斬新な挑戦が行われました。
それは、フローリングを無垢にしたのです。
賃貸物件は新築が最も価値が高いとされてきたため、部屋が入れ替わるたびにいかに新築に見えるようにするのかを最重要点として素材選定が行われてき ました。その結果、現状復旧時に取り替えのできない素材の表面はコーティング材で保護されるようになりました。フローリングは安価な合板で表面がコーティ ング塗装された物が利用されるのが一般的でした。
しかし、今回は無垢のフローリングを利用しました。これは、オーナーの吉原さんと何度もお話を重ねてゆく結果、天然素材の良さをわかってくれる方が必ずい る、今やそういった時代に戻ってきた、リノベーションだからこそできる素材である、という結論に達し、無垢のフローリングを使用しています。
(現時点で、入居者の方が1回以上入れ替わっていますが、予想通り、素材の良さをわかってくれる方が入居なさっています。)
● 素材選定
床:合板フローリング・畳 → 無垢フローリング(ロッキーパイン)+オスモ
壁:モルタル+塗装 → 現状のまま
天井:既存天井撤去 → コンクリートスラブ(小幅板型枠)+塗装
さあ、これで、基本的な方針が固まりました。続いてデザインです。
次回へ続く・・・。
■ リノベーションとは何か 09
■ デザイン
このプロジェクトに最もふさわしいデザインとはなんでしょう・・・?
最も簡単で、最も難しい、私はデザインを考えるとき、他の人々はどうやってデザインを進めてゆくのか
■ デザイン
2001年 「CQ」 ミッドセンチェリー デザイン リバイバル
2001年、ローマン・コッポラ監督は「CQ」という映画を創り出した。
「seek you」をもじった題名のこの映画は、69年/70年という20世紀で最も文化が充実していた時代の中で、自分探しをしている過程を、セルフポートレイトムービーとして制作している映画監督と、その映画監督が仕事で撮っているSF映画「ドラゴンフライ」が、パラレルに、時に絡み合いながら進んでゆく。
BGMはメロウ。


ミッドセンチュリーのクリエーターたちは、様々なイデオロギーの渦巻く中で、21世紀という未来を夢見て、ミッドセンチュリーモダンを生み出した。21世紀を迎えた世界では、ミッドセンチュリーのクリエーターたちの夢見た21世紀の未来を懐かしむように、そして、あの時代の嵐にあこがれるように、ミッドセンチュリーデザインリバイバルが蔓延している。ローマン・コッポラの「CQ」も、2001年に創り上げられた、ミッドセンチュリーへのオマージュである。
1965年完成、福岡市博多区『山王マンション』・・・幾分懐かしく、寂しげなこの町のミッドセンチュリーモダンのマンション。あのころの時代を象徴している、焦げた茶系のタイル、素材そのままの色のアルミの鈍い光沢、色あせ、所々さびている手摺。中庭の廊下にはロープが張られ洗濯物が干してある。
部屋は、典型的な公団仕様の和室。建具の高さは6尺=約1m80cm。玄関ドアは鉄製の重い扉。台所の流し、ポリの浴槽とモザイクタイル、和風便器。そして、畳敷きの二つの部屋・・・。
21世紀の今、『山王マンション』の1室が、ミッドセンチュリーデザインリバイバル→21世紀モダンとして蘇る。
次回へ続く・・・。
■ リノベーションとは何か 10
■ 設計
計画方針、デザインモチーフが決まりました。
具体的な設計作業に入ります。
デザインモチーフ → 「CQ」
映画に描かれたミッドセンチェリー感。はたしてどうやって表現するのか?
素材 → 60年代の色
最適な素材を探している中、運良くニチベイが60年代に流行した商品を復刻版として販売しはじめた、「やまなみ」というアコーディオンドアを見つけました。これがいい。(ミッドセンチェリーブームに乗っかろうとしたメーカーが、ほんの数ヶ月前に発売した商品でした。)
多彩な原色系の色使いのポップなデザインとした603号室は青と緑の原色系のビニール素材にし、半透明のあわく膨張するようなデザインとした402号室は乳半色の素材を選定し、それぞれ対照的で異なるデザインにしました。
この素材をどう使うのか? → 切り取り空間、
取り払われたインフィル。スケンルトン状態の一つの空間。
始点から曲線がのびてゆく・・・終点へ、切り取られた空間。
「1LDK」 → 魔法の間取りが完成。
「1LDK」は魔力を持った表示です。
居る X 寝る 生活の基本形を表現した記号、それが 「1LDK」。

↑ 603号室 青と緑の原色系のビニール素材アコーディオンドア 1つの空間を切り取り「寝室」とする→「1LDK」

↑ 402号室 乳半色のビニール素材のアコーディオンドア 3枚のアコーディオンドアでLD/寝室を切り取る
次回へ続く・・・。


