コラム

2016.06.17「例外のほうが多い時代」の新OS ラフスケッチ

◼ 「例外のほうが多い時代」の新OS(例外のほうが多い規則)ラフスケッチ
(「標準がなくなった時代」の新OS)

すでに「近代」は過去の一時代となってしまったのか・・・近代が近代であるための原理原則が、実社会と横ズレをおこし、シンクロ率がどんどん落ちていっている。例えば、今世紀初頭から始まった”リノベーション現象”、振り返ればこの現象も近代が作り上げた標準システムとの横ズレから始まった。建物の供給過多のストック時代、不動産の大衆解放運動リノベーション文化が一気に花開いた結果、不動産業界全体の常識が横ズレ崩壊、新しい価値が上書きされていっている。他の分野に視野を広げてみれば、不動産業界同様、近代にとっての標準システムが根底から横ズレをおこし、近代にとっての例外状態が日常の出来事になってきている。21世紀も10年代半ば、「ポスト近代」に突入し、近代の原理原則が大きく崩れ始めている。


◼ 三つの例外状態(他にもある)
1. コントロールできない外力による例外状態
2. 需要がない世界=資本主義の限界(?)による例外状態
3. ストック時代の到来による例外状態


1. コントロールできない外力による例外状態
(近代化とは関係ない現象と近代化がもたらしたかもしれない現象がありそうだ)

予測不能、気まぐれで不機嫌な自然による異常事態が身近(例外のほうが多い時代)となってしまった21世紀の日本。どこで地震、ゲリラ豪雨、巨大台風、などの自然災害が襲ってきても不思議ではない、という感覚が標準となった。国外でも時々近代化の影響かもしれない異常な気候変動による被害が発生している。(中東、アフリカでは紛争が絶えず、欧米では人為的テロが多発し異常事態が続いている。これも近代化の過程における副産物といえそうだ。)

この非常時の混乱は、平常のかかえる、”近代”から”ポスト近代”への移行期に誘発される混乱とその対応策を象徴的に浮かび上がらせている。被災地関連の数々の内発的行為は、ポスト近代が進んでいくであろう、そして、進んでいくべき社会の根本原理を形づくるソフト的社会基盤のプロトタイプとなりそうだ。<例外が多い時代の新OSのヒント>そう思えてきた。


2. 需要がない世界=資本主義の限界(?)による例外状態
< 「資本主義がわかる本棚」(水野和夫さん著)を読んで>

『資本主義とは「貨幣を資本に転化させることで資本を自己増殖させるシステム」である。資本の自己増殖を測る尺度が利子率ないし利潤率である。』

「従来、この世に減価しないものは神と貨幣しかない。」(ミヒャエル・エンデ(誰やねん、笑))といわれてきたが近代になり「超越なるものを追放」したため、価値が増加するのは”貨幣”のみとなった(カール・シュミット(誰やねん2))とのこと。その貨幣の増殖は”利子率ゼロ”によって止まってしまった。2015年には、ドイツの5年国債利回りや日本の1年国債利回りはマイナスとなり”貨幣の減価”が始まったそうだ。
この世に減価しないものはなにもなくなってしまったのか?

『資本主義は「蒐集」するのに最も効率的であるがゆえに、資本は「過剰・飽満・過多」となり、ゼロ金利を招来させた。』

「蒐集」するものがなくなり、資本主義が限界をむかえつつある時代、それがポスト近代に突入し始めた21世紀の現在であるようだ。終わりをむかえつつある資本主義システムに変わる、次のシステムを模索し、作っていかなければならないというのだが、果たしてそんなシステムなどあるのだろうか。

需要がなくなり、投資先がなくなり、自己増殖できなくなってしまった今、資本主義も標準状態ではなく、例外状態が日常になっているようだ。


3. ストック時代の到来による例外状態
<既存建物の諸施設へのコンバージョン時の建築関連法、構造規定の限界>

新築を標準として構築している諸施設の建築関連法の構造規定は、既存の建物の改変を例外状態として取り扱ってきた。ストック時代をむかえた現在、既存建物の改変が徐々に広がり日常的になってきている。国全体の政策も各方面に配慮しながら注意深く移行させてきているが、文化移行は簡単ではなく、なかなか進まない。遅かれ早かれストック活用という例外状態が日常となるのはわかりきっているのだが・・・急激な変化による混乱のほうが、よりマズイ状況を招くのか(?)例えば、ストック物件の活用促進が大切なのだが、景気浮揚のためには、住宅着工戸数の増加が欠かせない。

 

● 「標準仕様」を均質的に強制する「ハード的構造規定」の全国一律運用は、近代の時代精神「未来永劫拡大・発展・進歩し続けるスクラップ&ビルドが常識」だった近代=20世紀には機能したが、ポスト近代を向かえているこれからのストック活用時代の日本では、ミスマッチ感が多いバグシステムに陥ってきたように感じる。

モノや商品よりもシステムやサービスそのものを扱うことがクリエイティブなポスト近代の新産業、新サービスは、既成の法が前提条件としていたものの”外”で発展、成果をあげている。(既成の法の枠内でしか考えられない管理者に相談したらダメと言われるか、判断を拒否されることはわかっている。枠の外にでないことには新規性・独自性は発揮されず、新しいことはなかなか生まれない。)既成の箱=空家空室が社会問題となったこれからの数十年、スクラップ&ビルドによる新築が前提の「法=ハード的構造規定」は、既存建物の改変を前提としたソフト的クリエイティブ性を発揮したプログラムの場合、バグが目立つシンクロ率の低い。ミスマッチシステムになってしまったようだ。(ちょっといいすぎか・・・)

 

◼ “ストック”+”例外のほうが多い時代”の新OS
(ポスト近代、ストック活用時代の新OS)

 

1.地域限定
<地域間格差(いい意味、悪い意味両方)が広がり格差を吸収できなくなっている状況、生き残りをかけて地域的特長・特異性を際立たせようと取り組んでいる状況、つまり多様性=個性を持つことを奨励していくなかで全国一律のハード的構造規定は無理が多い(方向性と反する)。条例単位で地域特性に合わせた規則を独自に制定>

 

2.時限的更新制度
<目の前の現象を過去の参照でしか見ることができない人には何が起きるかわからない例外が日常の世界。時限(定期)立法化し、例外のみまもりと本質解読を進めつつ、更新制度を取り入れ、例外的変化に対応。電脳空間では標準の、永遠に完成のこないアップデートがつづくシステムが実体空間に与える影響はおおきくなっているようだ。時間の概念をルールにどう取り入れていくのか課題。>

 

3.例外の監視・みまもり(規制的監視のみではない)
<いったい何が起きているのか把握すること自体が難しいソフト優位時代のこれからの社会では、新しいソフト(システムやサービス)デザインが時代を牽引していくのが当たり前。どんどん未知の(過去にとっての例外)現象が起きてくる。それらの現象を発見し、みまもり、時に監視。>

 

4.本質の解読<起きている現象が一体何なのか、本質がわからなければルール構築ができない。単なる規制で終わってしまう。未知の(過去にとっての例外)現象を解読し、何が未来の標準となるのか(なるべきなのか)を見極める能力が必要。>

 

5.社会貢献方向への誘導<ポスト近代、”社会貢献”が唯一の共通意志かもしれない。(単なるブームかもしれないが。)多様なる価値が混在していく社会における唯一の標準共通共感価値。(?)>

 

6.構造規定は、地域、時間、精神、を鑑み「ハード+ソフト=質」で総合的に判断していくしかないようだ。例えば消防署による「責任ある指導・審査・対応」が良い例となる。

 

◼クリエイティブ性の変化

ポスト近代はソフトデザイン優位時代。ソフトデザインのクリエイティブ性に合わせたOSに変更しなければならない。
“過去にとっての例外”を実行していくことが発展していくこと。それを推進させるプラットフォームの構築、それが新OSとなる。

なぜサイバースペースがこれほどの加速的進化を遂げているかと言えば、アプリケーションソフトそして、根本原理であるOSが次々とアップデートしていっているからだ。アップデートが生き残る唯一の手段、宿命としてのアップデート。(前に進むことしか許されない世界、そういった意味では”近代”そのものですね。”近代”は、”ポスト近代”へ移行しつつある実体空間から電脳空間へ乗り移った(?))

パソコンソフトのアップデートのように実社会に合わせ、日々変化がおきていくソフトデザイン(システム・サービスなど)に柔軟に対応できるOSが時には必要のようにも思うが、電脳空間だからできるのであって、実体空間で実現していくのは簡単ではないだろう。電脳空間は全て民間サービスであり、公共空間といえども民間サービスのプラットフォーム上につくられている公共であり、実体空間とは異なる。政府や役所、自治体が支配している公共空間、法律、社会システム=OSは、面倒な民主的手続きを経ないことには成立・実行することができず、民間支配の電脳空間のようにはいかない。電脳空間のスピーディーさに慣れてきてしまった中で、独裁的暴走を防ぎながらいかに民主的手続きを簡略化し、決定・実行速度をあげられるのか(いくべきなのか)大きな課題。

コントロールできない外力が例外状態を日常化し、資本主義が限界をむかえつつあるかもしれないこれからの実体社会の原理原則はいったいどんな概念・精神・システムなのだろうか?

 

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イマジネーション参考作品
・ 「偽物語」より作者:西尾維新心房昭之:「アンリミテッドルールブック<例外のほうが多い規則>」
・ 「資本主義がわかる本棚」著者:水野和夫:日経プレミアシリーズ(新書)

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