コラム

2014.07.19『荒木飛呂彦論』 著者:加藤幹郎さん:ちくま新書

 

「荒木飛呂彦論」 マンガ・アート入門  著者:加藤幹郎さん

 

○ マニエリスム超長編漫画

冒頭、『芸術家(アーティスト)とは、伝統的なメディア文化史をふまえたうえで、その延長線上で革新的な作品を創造する人のことです。』と定義したうえで、マニエリスム超長編漫画『ジョジョの奇妙な冒険』を具体的かつ詳細に説明してくださっています。

そして、漫画史の歴史的位置付けとして、次のようにまとめています。

『主要人物の身体画像と精神描写の伝統文化的な「内容と形式」の革新的変様によって、『ジョジョの奇妙な冒険は』は世界(日本)漫画史上、最高レベルの作品となる。』

『「現実」と「超現実」の二分法(二項対立)の波紋(波動)的否定。「善人」と「悪人」の錯綜した非二元論的精神表現。マニエリスム漫画像による圧倒性。そして主題系の暗黙的一貫性。』

『他の先鋭的芸術媒体(絵画、小説、映画など)と同等の水準に達した。それにより、日本の漫画は人間の芸術的構想を具現化しうるものだということが、欧米を中心にようやく認識された。』

このように、他の分野、表現媒体も含めた歴史の流れの中で「漫画」そして「ジョジョの奇妙な冒険」の位置付けをおこなっています。すでに「漫画」はアートとして世界的にみても無視できない作品を生みだしているのです。

○ “波紋”と”幽波紋”→”スタンド”
『”ディオ”+”ジョジョ”、つまり吸血鬼的「悪霊」+ジョジョの「波紋」の融合により”幽波紋”と呼ばざるをえない新能力となった。その能力がジョナサンの子孫に波紋的に波及し”スタンド”と名を変え、以後、全パートにおいて定着します。』というように、”波紋”から”幽波紋”、”スタンド”への移行もわかりやすく解説してくださっています。”スタンド”という善と悪の融合により発生した”波紋”の発展的創造、この発想力が他の作品、そして、他の表現媒体の追随を許しません。

○ 芸術漫画の鑑賞ポイント
荒木飛呂彦さんの超長編漫画『ジョジョの奇妙な冒険』をアート・マンガ(芸術漫画)と名付け、この作品の特筆すべき芸術的特徴を様々な側面〈画質、物語、主題、イデオロギー、人間精神〉から分析、具体的にわかりやすく提示し、その芸術漫画たるゆえんを解説しています。これを読めば、絵画や小説同様、鑑賞ポイントも見えてきます。
現代芸術、ボップアートは作品を見ただけでは鑑賞ポイントがよく分かりませんね(笑)。これらは、作品と専門家の解説文と一対として作り上げた文化といってもいいでしょう。新文化である漫画の鑑賞ポイントも一般的にはまだ確立していないといってもいい状態です。これから欧米に認められる文化として浸透してゆくに従い、鑑賞ポイントも作品の批評、評価とともに確立していくことでしょう。

140719-a

○ “漫画”の時代
戦後のアート界を象徴するものが”ボップアート”ならば、21世紀のアート界を象徴するものは”漫画”になるとは思いませんか?
新しい文化は時代を象徴し、社会を反映し、人の価値観を表現します。20世紀を象徴した消費社会、資本主義がいきづまりを見せています。(何とか)主義とかイデオロギーの時代は終わり、区分できない”いい意味/悪い意味”が混在した暴力的グローバル化の中で生き残りをかけた価値無き(意味無き、判断不能の)富の争奪戦時代をむかえ、暗中模索、霧の中を右往左往する時代となっています。この時代を象徴するものとして”漫画文化”(アニメ)は最適かもしれません。

国境、宗教、文化、政治、などをいとも簡単に乗り越える”漫画(アニメ)”。人として(宗教感の薄い)誰もが共感できる身近な感覚をもとにした、高尚ぶらない(これ重要)新文化ならではの自由な発想・表現。これらの普遍性、浸透力、影響力は他の媒体の追随を許しません。
昔を振り返ってみると、幼少期に戯れた漫画文化の影響がいかに大きいのかが分かってきました。数十年後の文化の趨勢を決めるのは、幼少期にはやった優れた漫画がどの分野なのかにかかっているといってもよいかもしれません。

例えば多くの医師が”ブラック・ジャック”をきっかけに医師になっています。(私の友人も小学生の時にむさぼりつくように”ブラック・ジャック”をよんでいた。つまり、真の勉強は”ブラック・ジャック”を読むことであり、小学校から高校までの学校教育は、大学で医療の勉強をするための、たんなる一手段でしかなかったのだ。)
ロボットの開発者、サッカー選手なども同様ですね。

漫画の特徴は長期連載システムです。25年もの間、連載を継続できる媒体は漫画ぐらいでしょう?(あっ寅さんがあったか))
これを支える読者がいる日本の漫画文化は本当に凄いですね。

 

 ————————————————————————

『荒木飛呂彦論』 マンガ・アート入門  <著者:加藤幹郎さん:ちくま新書1052:2014>

https://www.facebook.com/nano.library

 

 >> 他のコラム一覧

 

 

一覧へ戻る

  • TOP
  • COLUMN
  • 『荒木飛呂彦論』 著者:加藤幹郎さん:ちくま新書