コラム

2013.01.22福岡ビンテージビルカレッジ / 第1回 「私のVINTAGE LIFE」 ― ご報告と私の感想


■福岡ビンテージビルカレッジの主旨
ビンテージビルカレッジの主旨は、ビンテージという概念がまだ無い”ビル(建物)”の分野で、どのようにすれば”ビル(建物)”のビンテージ文化をつくれるのか?を、すでに社会に定着している、他分野のビンテージ文化の”感覚”を学ぶことにより、考えていこうというものです。また、産業構造の変化により、ソーシャルビジネスが広がっている中で、新しく創りだされた様々な分野のビンテージ文化が、社会性のあるビジネスと適度に結びつくことにより、持続的、安定的に社会に普及し、日常生活を支えるそれぞれの街や地区を魅力あるものへと導くような文化として成長する可能性があるのではないか?といったことも同時に考えていきたいと思っております。

福岡ビンテージビルカレッジの第1回目として、「AMP GALLERY & CAFE’・アトリエてらた」のオーナー兼デザイナー兼ミュージッシャン、または、プロの遊び人とも呼ばれる瀬下氏による、エレキギター、ジーパン、スカジャンなどのビンテージについてのお話をしていただきました。今回の「続・山王R」において、リノベーションデザイナー4人の中のお一人として一部屋のリノベーションをご担当され、デザインのみならず、セルフビルドでご自身自ら塗装をされ、部屋全体をアートで装った、カレッジでお話くださった世界観そのものであるミッドセンチェリー感=つまりビンテージ感あふれる空間を創作されております。このお部屋を意味づける大切なアイテムとして、これからお話になる、ビンテージ・エレキギター、ジーパン、スカジャンなどが、そのために意図してつくられたスペースにディスプレイされていました。


■瀬下氏のビンテージのお話
瀬下氏のお話はまずビートルズ時代のビンテージ・エレキギターから始まりました。お話をお伺いしていると、それは、エレキギターそのものだけではなく、ビートルズが活躍していた頃の”時代の息吹”や”社会の雰囲気”みたいなもの、当時の文化全体へのオマージュが基礎となっていることがわかります。

○ビンテージ・エレキギター
お好きなビートルズ時代のビンテージ・エレキギターを購入し、それを使い込んで熟成させていきます。大切に見守りながら10年程度経過した頃、表面の塗装面にピリッと”割れ”が生じてくるそうです。マニアにとってその”割れ”が何ともいえないそうで、その”割れ”を見ながらお酒を飲むのが何ともいえない至福の時間とのことです(笑)。

楽器に関しては、”音”もビンテージに含まれます。実際に、新しいエレキギターの音とビンテージ・エレキギターの音を出していただき、聞き比べをしました。古いエレキギターの音は、確かに新しいものとは異なり、マイルドでやさしい音でした。ビートルズが活躍していたころの雰囲気を出すには、当時の機器がどうしても必要とのこと。エレキギターを取り巻く周辺機器が揃うことにより、当時の”音”を再現することができるんですね。これは、楽器や服に限らず、その他のビンテージ品、もちろん”ビル(建物)”にも当てはまることといえそうです。

○ビンテージ・ジーパン、スカジャン
次に、ジーパン、スカジャンに関してです。ビンテージ文化の特徴をよく表している、おもしろいエピソードのお話がありました。価値の高いジーパンやスカジャンのビンテージコレクションを無造作に押入にしまっておいたところ、お母さんが、このボロは捨てていいのだろうということで、何着かは断りもなく捨てられてしまったそうです(笑)。マニア以外の方々には単なる小汚いボロに見えるジーパンやスカジャンですが、ビンテージ相場でいえば10万円程度するものだったとのことでした。これらは、保存の程度やダメージ具合などで、人によって評価基準が変わるようですが、そのモノ自体、そして、その状態の価値基準は、総じて共有され、評価基準に沿って実際に取り引きされているとのことです。

こういったエピソードをお聞きすると、ビンテージ文化が一般常識にとらわれることなく、”ビンテージ的目利き”ともいえる確かな”目”をお持ちの魅力ある人々により支えられ、価値を広く共有することによりビジネス的にも確立していることがわかります。
お話をお伺いしていると、ビンテージ品が存在していた当時の”時代の息吹”や”社会の雰囲気”みたいなものが、いかに大切なものであるのかがわかってきました。当時の素材、製法や工法、道具や加工機械、それらを実際に作っていた当時の職人、そして、流通を通し購入し実際に使っていた人々、その時代ならではの裏エピソードなど、当時のモノを取り巻く文化全体の物語がビンテージ品に価値を与え、支えになっているようです。そのモノを取り巻く文化全体の物語、つまり”ビンテージ的世界観”みたいなものがビンテージ品の”背景”として価値をさらに高め、人々を魅惑の世界へと誘ってゆくのだと感じました。


■ビンテージ的感覚要素
瀬下氏のお話を参考に、さらに踏み込んで、ビンテージ的感覚の要素について考えてみます。モノ(製品や建物も)は、素材(物質)、デザイン(かたち・フォルム)、機能(用途)などで構成されていますが、感性に訴えてくるビンテージ品に関しては、機能、デザインを含めたフォルムはもちろんのことですが、基本的なところで全体の質や雰囲気を決める”素材感”や”質感”、もっと突き詰めればモノが物体であることを示す”物質感”が価値におおきく影響しているように感じています。

簡単に振り返ってみると、自然界の素材のみをそのまま活用していた時代から、近代を向かえ化学的な合成技術の発達により多くの新素材が、新しい機能を持ったモノのために、めまぐるしく時代が進む中で時に流行を生みながら、新工法、新しいデザインとともに作り出されていきました。(考えてみると次々に新素材が生み出される現代は、時として素材が時代性を表すこともあります。)近代とは、人工物質・新素材時代ともいえそうです。(当然ながら、自然素材でも人々を魅了する新商品は次々に生み出されています。)

次々に生み出されいくモノの中には、人々の感性に響く、特別な輝きを発する存在感が突出したモノも生み出されました。どのようなモノでも、新素材・自然素材関わらず”物質”でできています。それを素材にデザインや機能を付加しモノ(製品や建物)になるのですが、ビンテージ的感性に響いてくる特別な存在感を示す要素として、視覚から始まり”手触り”や”耳触り”、”におい”など様々な感覚に訴える”素材感”や”質感”、さらに言えばその元となる”物質感”が大きな影響を与えているように感じられました。めまぐるしく時代が変わっていく中で、いつしかそれらのうちの幾つかは、心の琴線を揺さぶリ続けるビンテージとして残っていき、ビンテージ文化として成長、確立しています。


■背後の世界観
ジーパンに関しては、ダメージ仕上げという、真新しい素材にわざとダメージを与えて使いこんだ状態に仕上げるという加工技術もあるとのことです。一般人にとっては、新しいものに傷を付けるというちょっと心が痛む後ろめたさみたいなものがありますが、マニアの皆さんにとっては、そのダメージ感覚が大きく感性を揺さぶるようなのです。
上記の”物質感”につながりますが、もしかすると、このダメージ仕上げは、建物でいえば、最近の(特に若者たち)廃墟ブーム等に見られる、古く寂れた”はかなさ”みたいなものに心引かれる現象に関連があるかもしれません。新製品消費時代から逆行する、このようなダメージ仕上げや古着ブームから、家具、インテリア、建築に感覚が広まっていったといっても良いかもしれません。

これは、ちょっと飛躍し過ぎかもしれませんが、私が子供の頃に胸踊らせた大阪万博的”輝かしい未来”志向から、宮崎アニメの設定に見られる、”行きすぎた文明の果ての破滅(と、その後の世界)”志向へと、時代感覚が移行していった結果と見ることはできないでしょうか?未来志向の新しいモノより、朽ちてしまいそうな古いモノの奥に見隠れする”物語”に感性は揺さぶられ、引き寄せられているようです。”ビンテージ的感覚”とは、”物質感”を基礎とした古いモノ自体に魅了される感覚に加え、モノの裏に見え隠れする物語により自然に感性が刺激され、ふくらんでいく想像力により作り出された”独自のビンテージ的世界観”、その”独自のビンテージ的世界観”も含めて古いモノを楽しむ感覚のようです。


■貞國氏と青木氏のご登壇
瀬下氏のお話後半、福岡でご活躍の「スタジオアパートメントKICHI」の貞國氏と東京でご活躍の「㈱メゾン青樹」の青木氏のご登壇となりました。お二人ともにビンテージビルなど古い建物はもちろんのこと、当時の文化全体がお好きで、確かな”目”をお持ちの方々です。それぞれのお仕事内容や、瀬下さんのデザインなさったリノベーションルームの素晴らしさなどを語っていただきました。

貞國氏は、ご自身で所有運営なさっている、音楽、アート、ファッション、デザイン、パフォーマンス、建築家、漫画家など、あらゆるアーティストがジャンルの壁を越えて潜伏している、アーティストのための賃貸マンション「アパートメントKICHI」の取り組みや、古いモノの魅力などを話されました。
そして、東京からのご参加の青木氏は、ご自身で所有管理されているビンテージビルの魅力と意欲的な取り組みなどの興味深いお話や、ストレートに魅了された、瀬下氏ご担当のリノベーションルームについて、瀬下氏が意図したポイントを的確につかんだ上でのご感想を、表現豊かに話してくださりました。私には、お二人の話している姿が、先ほど瀬下氏がビンテージギターやジーパン、スカジャンを噛み締めるように楽しく語る姿と重なってみえました。
瀬下氏、貞國氏、青木氏それぞれのお話や会話のように、つまり、ビンテージ文化とは、ビンテージが好きで、その”感覚”を共有した人々による”語り”を楽しみながら、”交流”を広げていけるような文化ではないでしょうか。


■グループ討議
次に、約60名ご参加の皆様に5,6名のグループに分かれていただき、グループ討議をしていただきました。

議題は”自分の趣味について語り合うこと”です。
ビンテージ文化とは、簡単にいえば、好きなものについて価値を共有し、楽しみあうことです。これは、これからのストック時代には、最も重要なことかもしれません。右肩上がりではない、水平飛行が普通の世界で、仕事と同様に日々の生活が重要な中で、生活の糧となるような”趣味”の”有る/無し”が”幸福度”指標に大きく関わってきそうだからです。多くの若者たちが、「自分の好きなことがそのまま仕事にらないかなあー」と、淡い夢を抱いています。それは、そうなることが幸せなことであると考えているからでしょう。自分とは何かを、つまり自己の確立を、ある意味脅迫的に迫られる現在において、もっとも大きなテーマのようにも思います。そのような意味もあり、自分の内側から出てくる気持ちで成り立つ”趣味”が、もし、ビジネスと結びつくような文化が広まれば、みなさんにとって幸福で充実した生活ができる社会になるように思います。(淡い夢かもしれませんが)

グループ討議の発表では、DIYのお話や、料理づくりなどのお話が出てきました。それは、自分たちで生活を豊かにしていこう、趣味を通してつながりをもてる社会にしていこうという(その場では漠然としていましたが)意図を見出すことができます。これからの社会の方向性として、これら各個人の趣味により新しく創りだされた(例えばビンテージ)文化が社会性のあるビジネスと結びつくことにより、日々の生活を地域内で楽しみながら文化面と経済面の両面で交流していけるような社会になるのではないか?という可能性についてもこれからの課題として取り上げられました。

今まで同様、新しいモノは作り出されていくでしょうが、一方で、古いモノの価値を独自の感性で定義づけるビンテージ文化は、昭和時代ほど新品の価値が高くなく、古いモノに価値を見出せる感性を持っている人々がますます増えていくこれからのストック社会の標準的な感覚を秩序づけ表現する基礎的文化となるように思います。

■最後に
ビンテージビル文化が広まり定着することがビルストック時代には必要です。なぜなら、普通に半世紀以上、できれば一世紀近く建物を活用していくビルストック時代には、時間の経過とともに自動的に価値が減少していくような今までの一般常識とは別の論理が必要だからです。ビンテージ文化は、時間の経過のみで一律に価値が減少するようなことはありません。そのモノの”質”を”ビンテージ的目利き”ともいえる”独自の感性”で定義づけるものです。時間の経過で価値が減少する単純な反比例関係とは別の、”質”を”独自の感性”で定義づける”ビンテージ的評価基準”が一般化し、標準的な価値基準となることが、これからのビルストック時代には必要ではないでしょうか。

このようなビンテージビル文化の広がりは、建物好きな人々が増えることであり、街を好きな人々が増えることであり、なにより、そこで生活することが好きな人々が増えることです。その結果、ビンテージビル文化度の高い街は、魅力的な建物、そして、街並みが維持されることにつながり、充実した暮らしがあふれる街になることでしょう。

あまり打ち合わせもなく、行き当たりばったりで進められた第1回ビンテージカレッジ、吉原住宅(有)の吉原氏の臨機応変な進行で、なんとか終えることができました。ご参加のみなさま、発表していただきました皆様、ありがとうございました、そして、お疲れ様でした。

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福岡ビンテージビルカレッジ :http://www.space-r.net/bunkasai/college
第1回 私のVINTAGE LIFE / 2012年12月16日(日)
主催:NPO法人 福岡ビルストック研究会/(株)スペースRデザイン/吉原住宅(有)
コーディネーター
     吉原勝己氏(吉原住宅(有)代表取締役)/信濃康博(信濃設計研究所所長)
場所:山王マンション/1F

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次回
第2回 オフィス文化から生まれるビンテージ / 2013年1月19日(土)
第3回 食文化から生まれるビンテージ / 2013年2月2日(土)
第4回 京都のビンテージが生みだす都市再生 / 2013年3月9日(土)

 

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