■山王マンションリノベーションⅠ期_2004年 ― 福岡のリノベーション黎明期

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Ⅰ.山王マンション  リノベーション Ⅰ期
603 / 402号室 リノベーション

本件は1965年完成当時、時代の最先端であった賃貸マンションを39年後の2004年、最先端のデザインで再生させるプロジェクト。
2004年8月完成
福岡県福岡市博多区博多駅南4丁目19-5
施工:(株)プライム建設

Ⅰ 1965年 『山王マンション』の誕生 → 2004年 現況
    

■ 外観・中庭
これはオフィスビルではないのだろうか? 時代を感じさせるタイル・・・これは「福岡天神ビル」(1960)と同時代のタイルだ。水平横長窓、バルコニーはない。1Fは店舗・・・やはり、オフィスビルといってもいいような外観。車が駐車場に入ってゆく・・・中庭だ。廊下が中庭に面してあり、南に面したところは部屋となっている。廊下には物干しロープがはられている。これは、まさに集合住宅。
中庭を中心としたコの字型プラン、片廊下型、都市の中にも快適な居住空間を作ることを意図した都市型集合住宅の典型的な配置。中庭に面した片廊下は、外観とはまるで違い、居住者の生活感があふれている。外側はオフィス風のすました外観、内側の中庭は居住空間としての人間くささのあふれた空間、つまり、生きた空間となって、建築と人との密接な関係を教えてくれている。この建物は1965年の完成ということで、私と同じ年の建物だったのだ。あらためて「時間と建築」について考えさせられた。建物の完成から39年後、21世紀の現在、果たしてこの建物の設計者は、どのような21世紀の街並み、都市、そして、日本を想像していたのだろうか?

■ 1階から廊下へ
中庭からいったん外に出て1階まわりを見てみると、昔ながらの質感・光沢をはなつアルミサッシ、角が丸められた足もとまわりにはモザイクタイルが張られている。現在、リバイバルではやっているデザインだ。入り口から中へ、エレベーターの動きも時代を感じる。廊下には配管が露出し、手摺の鉄は錆が出ているが、21世紀の現在において、感覚は逆転し「時間」のみが造ることのできる熟成された無機質素材が、現代アート空間をつくりあげている。

Ⅱ 1960年 → 1970年 20世紀でもっともおもしろかった時代
    

山王マンションが誕生した 60年代は、20世紀文化の隆盛期でした。

1960:安保条約反対闘争 / 所得倍増計画 / トランジスタテレビ「TV8-301」ソニー / カラーテレビ本放送開始
1961 :世界初の有人宇宙船ガガーリン / 「ニューフロンティア」ケネディ大統領 / ベルリンの壁
1962:キューバ危機 / 若戸大橋 / 「キャンベルスープ」ウォーホール / 「S360」ホンダ
1963 :「鉄腕アトム」放映開始 / ケネディ大統領暗殺 / 北九州市発足
1964:東京オリンピック / 新潟大地震 / 東海道新幹線営業開始 / 首都高速道路開通
1965 :「ヘア・リボンの少女」リキテンシュタイン / ヴェトナム戦争 / 「サンダーバード」イギリスで放送開始
1966:文化大革命開始 /「ウルトラマン」放送開始 /「華氏451」トリュフォー /「サンダーバード」日本で放送開始
1967:「ウルトラセブン」放送開始 /「ウイークエンド」ゴダール / ツイッギー来日 / 「マッハGO! GO! GO!」
1968: 「2001年宇宙の旅」 /「猿の惑星」/「パワーズ・オブ・テン」/五月革命 / 東大闘争・全共闘運動 /「あしたのジョー」
1969:アポロ11号 月面着陸 /「宇宙船地球号 操縦マニュアル」」バックミンスター・フラー / ウッドストック
1970:大阪万博 / 日航「よど号」事件
1971:沖縄返還協定に調印 /「仮面ライダー」放送開始 / マクドナルド1号店 / ロイヤルホスト1号店 /「ニクソン・ショック」

Ⅲ 1990年 → 2004年 日本文化修正の時

■ ポストバブル
戦後、日本は焼け野原の中、貧困からの経済復興、そして奇跡的な経済成長を果たします。それは「豊かさ=お金=物質」という日本全体の目標に邁進した「日本の青春時代」だったともいえます。その頂点がバブルであったわけですが、1990年代初頭、それははじけ飛びました。バブル崩壊以降、想像以上の長期の経済低迷は、バブルの残像にさいなまれ、青年期から大人への移行過程で情緒不安定な時期を過ごすように、自分探しをしているような状態を生み出しました。実感として日本全体が戦後の制度疲労とあいまって、混迷の時代となっています。
しかし、この長期の経済低迷による「自分探し」は価値観の変革を生み出しました。それは、「自分探し」→「自分のまわりをゆっくり見まわすこと。」です。この自分の生き方を含めた生活空間の見直し作業は、情報化社会のなかで「デザイン化社会」を生み出しました。『物』を買いあさるのではなく、『デザイン=質』を買うようになってきたのです。よいデザインが価値の基準となっています。自分の生活を豊かにするものは、質の高いデザインに囲まれた生活=自分のライフスタイルの確立、であるわけです。
経済至上主義を乗りこえる、日本文化の修正が行われています。

■ インテリアブーム
21世紀の到来は、日本に信じられないほどのインテリアブームをもたらしました。これは戦後、服飾中心のファッション雑誌等が創り上げてきた日本のファッション文化が成熟し、ついには服飾から飛び出し小物から家具、そしてインテリアへと派生してきた結果だと思います。
バブルで満ち足りた物質文明が否定され、表面的ファッションだけでは飽きたらず、生き方を含めた生活全体をデザインしてゆく、つまり「自分のライフスタイルの確立」という文化へと成長したわけです。
現在では、インテリアから建築、そして、街並みへと意識が拡大しています。これは、インテリアという意識が自分の部屋から飛び出し、街並みもインテリアであると考えることですが、公共性という大きなハードルがあります。このハードルを越えることができた時、きれいな街並み(=まちづくり)が実現できる社会となります。

Ⅳ デザイン1 : [CQ]  ミッドセンチェリー デザイン リバイバル
    

2001年、ローマン・コッポラ監督は「CQ」という映画を創り出した。
「seek you」をもじった題名のこの映画は、69年/70年という20世紀で最も文化が充実していた時代の中で、自分探しをしている過程を、セルフポートレイト ムービーとして制作している映画監督と、その映画監督が仕事で撮っているSF映画「ドラゴンフライ」が、パラレルに、時に絡み合いながら進んでゆく。
BGMはメロウ。ミッドセンチュリーのクリエーターたちは、様々なイデオロギーの渦巻く中で、21世紀という未来を夢見て、ミッドセンチュリーモダンを生み出した。
21世紀を迎えた世界では、ミッドセンチュリーのクリエーターたちの夢見た21世紀の未来を懐かしむように、そして、あの時代の嵐にあこがれるように、ミッドセンチュリーデザインリバイバルが蔓延している。
ローマン・コッポラの「CQ」も、2001年に創り上げられた、ミッドセンチュリーへのオマージュである。1965年完成、福岡市博多区『山王マンション』・・・幾分懐かしく、寂しげなこの町のミッドセンチュリーモダンのマンション。
あのころの時代を象徴している、焦げた茶系のタイル、素材そのままの色のアルミの鈍い光沢、色あせ、所々さびている手摺。中庭の廊下にはロープが張られ洗濯物が干してある。
部屋は、典型的な公団仕様の和室。建具の高さは6尺=約1m80cm。
玄関ドアは鉄製の重い扉。台所の流し、ポリの浴槽とモザイクタイル、和風便器。そして、畳敷きの二つの部屋・・・。21世紀の今、『山王マンション』の1室が、ミッドセンチュリーデザインリバイバル→21世紀モダンとして蘇る。

Ⅴ デザイン2 : 脱均一化・脱標準化

■ 脱均一化・脱標準化ーすべて異なるデザイン
築30年以上のマンション、空き部屋になった部屋を次々とリファインしてゆく、しかも、全て異なるデザインコンセプトで ・・・。材料ばかりではなく、間取りに関しても今まででは考えられないほど挑戦しています。もし、このように全て異なるデザインコンセプトでリファインしてゆくと、全ての部屋のリファインが完成したときには、同じデザイン・同じ間取りの部屋はない状態になります。「均一的な間取り、標準仕様の部屋」 では飽き足らない借り手がますます増えていく中で、個性のある、作り手の考えがわかるようなデザインが求められるようになるのは、時代の流れといってもよいでしょう。間取りに関しても、「均一的な間取り、標準仕様の部屋」 ではない、「個性的で作り手のデザインに共感できる部屋」 を借りたいという 『賃貸マンション文化』 が定着していくものと考えています。

Ⅵ デザイン3:素材 – 脱ラッピング仕上げ

■ 素材
無垢のフローリング ・ 塗装の壁、天井 ・・・。賃貸マンションでは実現することのできなかった仕上げです。それが、本プロジェクトで実現に至りました。
この挑戦は、いままでの 『賃貸』 マンションのあり方に一石を投じるものです。
無垢のフローリングは、年月がたつうちに傷が付いたり、反ったりしてきます。しかし、それは生きている材料の証であり、本物の材料であるが故の現象です。
10年、20年後になっても、そういった無垢のフローリングを好んでこの部屋を借りてくれるような 『賃貸文化』 があってもよいのではないでしょうか?
「合板フローリングにクロス仕上げ」ではない、「無垢フローリングに塗装仕上げ」 という 『賃貸文化』 の定着を待ち望んでいる「借り手」も、少数かもしれませんが、必ずおいでになると思います。

■ 主な仕上げ
床 - (無垢)ロッキーパインフローリング(402・603号室)/(無垢)杉フローリング(502号室)
塗料 - オスモウッドワックス(室内用)
壁・天井 - コンクリート打ち放し / モルタル金ゴテ仕上げ + EP塗装
玄関床 - ガラスモザイクタイル(402・603号室) / ビニル床タイル(502号室)
洗面シャワー室 - ポリコンモザイクタイル
玄関照明 - リネストラランプ
リビング照明 - 照明用シーリングダクト (402・603号室)
間仕切りスクリーン - アコーディオンドア・スケルトンタイプ (402・603号室)
化粧材 - 古木・竹・欄間 (502号室)
キッチン - ステンレスキッチン製作モノ・キャスター付ワゴン・パンチングメタル吊り棚
手摺 - ワイヤー(402・603号室) / 竹(502号室)
設備 - インターホン / 浴室乾燥機

 

Ⅶ [CQ] : 「SF ドラゴンフライ 山王マンション編」

■ プロローグ
1965年、福岡市博多区山王に、一つのマンションが建設された。
・・・39年後の2004年、古びたマンションの1室に一人の女性が潜んでいる。
コードネームは『ドラゴンフライ』・・・次の仕事の依頼を待っている。
ドラゴンフライが部屋へ戻ってきた。重い鉄の扉を開け玄関に入り込む。
床にはガラスモザイクタイル。この床にはコンピュータセンサーが組み込まれ人物を識別する。
ドラゴンフライを認識、アコーディオンカーテンが自動的に開き始める。
部屋に入り込んだドラゴンフライが指を鳴らす、するとステンレス403製のキッチンが壁から自動的に飛び出してきた。
コーヒーがカップに注がれる。その間アルミ製の扉を開け洗面・シャワー室に入る。モザイクタイルのスリット状の照明が
発光、洗面器から水が出てくる。
コーヒーカップを持ちながらリビングルームのパーソナルコンピュータの前へ。パントンチェアに座り情報をチェック。
BGMはメロウ。
再び指を鳴らすと、ベッドルームのアコーディオンカーテンが自動的に開き始める。ベッドに飛び込むドラゴンフライ・・・それと同時に壁掛けのカラーテレビに次の仕事の依頼が入る。
二つ返事で引き受けると壁からゲンナマが次々と噴き出してきた・・・。

■ 本編は居住者が制作 Seek You !

* なおこの文章はイメージが先行している部分(=SF)がありますので、アコーディオンカーテンが自動で開いたり、キッチンが飛び出したり、人物を識別したりなどはいたしません。

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