2014.05.06「2013年度、卒業制作について」
ツイート-
5月に入ってしまい、だいぶ遅くなりましたが、昨年2012年度の作品を見てまとめた「2013.03.18学生のみなさんの作品評価基準について」を元に、2013年度の卒業制作について考えてみたいと思います。
今年の卒業制作は多様性にとみ、優れた作品が多数ありました。その中でも、時代を表す特徴的な作品がいくつか見られましたので、それらの作品を見ていきたいと思います。私の非常勤講師をさせて頂いております専門学校の卒業制作は、建築、店舗、インテリア、家具、プロダクト、ディスプレイの6専攻の中から2つを選択し、作品制作をするというルールです。■『OMNI~バス(オムニバス) バスによる移動店舗』 作者:王 リリー作
この作品は、上記6つの分野のどれに該当するのでしょうか?この作品を見てわかるように、もうすでに、これまでの専攻による分類にマッチしない作品テーマが普通に選ばれ、卒業制作として作品になる時代になっています。
この現象は、特に教えているわけでもないが、繊細なる感性で時代を感じ取り、これから目指すべき方向性を的確に捉え表現していく、若者ならではの特性を表しています。(いつの時代もそうですね)大学では専門分野を突き詰めるカリキュラムになっていますが、専門学校では上記の6分野に触れることができます。これからは、広い視点で各分野をつなぐ(コーディネートする)ことも求められる時代です。”研究”はさておき、大きな視点を獲得できるのは、専門学校的カリキュラム構成かもしれません。(研究者にならない人が大学で研究してもあまり意味がないのでやめてほしいんですが、大学の意義がなくなるので不可なんでしょうね)
「専門分野を突き詰めプロフェッショナルになること」と、「広い視野と知識を持ち各分野をつなげプロジェクト全体を司ること」、これからは、大学においても、これらを選択できるカリキュラムが必要なように感じています。専門分野を突き詰めることに才能を発揮する方、広くつなげることに才能を発揮する方、これからの多様な時代に対応できるのは後者の方で、よりクリエイティブな仕事も後者の力量によって質が決まってしまいます。これが成熟社会の特性の一つといってよいようです。大学の縦割りシステムと、これから必要な人材が、一部(全部ではないです)合わなくなってきているようです。
各専門分野で牽制し合ってもあまり意味がない時代になってしまいました。専門・細分化時代から連結・協働時代に移行していると感じています。昨年度、学生の皆さんの作品をみて考えた、私なりの評価基準で、この作品を見てみます。
Ⅰ,ハードデザイン
Ⅱ,ソフトデザイン
Ⅲ,リ・イマジネーションⅠハードデザイン的評価
1,コンセプト
2,物語
3,アイデア
4,デザイン
5,プレゼンボード
6,プレゼンテーション(発表)Ⅱ、ソフトデザイン的評価
1,企画デザイン → ソフト的発想力
2,コラボデザイン → 組み合わせのおもしろさ
3,イベントデザイン → 参加型デザイン
4、ソーシャルデザイン → 社会性のあるデザイン
5、コミュニティデザイン → 集団や組織のシステムデザイン
6、コミュニケーションデザイン → ヒトとヒトの繋がりのデザインⅢ、リ・イマジネーション的評価
1,挑戦度
2,ユニーク度
3,飛躍度 齟齬度
4,斬新性
5,シミュラークル度
6,アンバランス度これは、私が学生時代だった頃の作品評価基準では、今の時代の作品を評価することができなくなってしまったと思い知らされ、昨年まとめたものです。
この作品、『OMNI~バス(オムニバス』をみると、「Ⅱソフトデザイン的評価」が内容的にマッチすることがわかると思います。王さんが考えたことは、「社会」「システム」など「ソフトデザイン」に対する提案です。これからの人口減少、少子高齢化を迎えた成熟社会における諸問題を、デザインの力により解決していこうという提案型ソーシャルデザインなのです。この作品を「Ⅰハードデザイン的評価」のみでみるということに無理があることがわかると思います。これからますます多様なる視点で、広い知識がないと、学生のみなさんの作品も的確に評価できない時代になってしまいました。この作品は、「1,これからの社会、人口減少、少子高齢化に突入した地域社会の公共空間の劣化」と、「2,都市生活の新しい楽しみ、アメニティ、新ビジネスの創設」など、地域や目的により2方面に対するデザイン提言となっています。
「市民社会」(著:福嶋浩彦さん)をよむとこう書いてあります。『「大きな公共」と「小さな政府」がこれからの小さな地域モデルである』と。交通手段と消費空間を組み合わせ、「大きな公共」を作ろうという試みなのです。一方、都市空間においては、移動する空間の中でおもしろさや魅力を出していこうという都市生活の新しいライフスタイル、新ビジネスの提案となっています。この作品、どう評価すればよいのでしょうか?わたしは、他の作品と比べて優劣を付けることに、それほど意味はないように感じています。それより、この作品を見て、いろいろ自分の生活空間を考えてみること、そして、できれば、学生諸君で意見を出し合い議論することの方が重要であると感じています。
-----------------------------------
→ 「2013.03.18学生のみなさんの作品評価基準について」