■ 山王-305号室-

 

 

プロジェクトメンバー

ビル所有:有限会社 吉原住宅
企画 / 運営:株式会社 スペースRデザイン
設計:信濃設計研究所/nano Architects
   信濃康博・小林かおり
施工:シーズ・クリエイションズ㈱
写真:日髙 康智 (air studio)

概要

山王マンション305号室リノベーション
主要用途:1F・テナント / 2F〜6F賃貸マンション
主要構造:RC造6階建(1967年竣工)
延床面積:305号室 48平米
リノベ竣工:2012年12月
間取変更:3DK → 1LDK

 

■ 賞
2015:第27回福岡県美しいまちづくり建築賞 / 福岡県建築住宅センター理事長賞 受賞作品
2014:The Architizer A+ Awards 2014 / 審査員賞 受賞作品

 

■ ”ザ・タイムズ” トランスプランテーション ― ”時代” 移植

○ 目的は建物を寿命まで使い切ること、そのための手段が「リノベーション」
この部屋のリノベーションでは、次の二つのことをテーマにデザインしています。
一つは、部屋のリノベーションデザインの可能性について、もう一つは、築45年のこの「山王マンション」を寿命まで、できればあと55年、合計100年使い続けるにはどうしたらよいか?ということです。
それには次の二つの要素について考える必要があると思いました。
一つは「価値」もう一つは「時間」です。

○ 「価値」と「時間」

一般常識では、建物は、時間が経過するほど価値は落ちてゆきます。この常識的な論理では、古い建物は、価値が落ちてゆくばかりです。これではストック時代 のこれからの社会で、古い建物の価値は認められないので、建物を使い続けるのは大変困難です。
例えば、45年前の新築当時のままの、この305号室。時代遅れの薄汚れた和室3室3DKの部屋は、既に価値がないように見えます。40年以上使い続けたために、いたるところに傷は付き、部屋全体は薄汚れ、木は痩せてしまっています。はたして、このような状態で、どこかに価値は残されているのでしょうか?
そこで、「価値」と「時間」について考えるリノベーションです。

○ ”時代”を移植する

常識的には価値がないと考えられている45年前の当時の部屋を基本的に残します。その上で、まず中央部の一部をくり貫きます[切除]。次に、くり貫かれた部分に、2012年現在のデザインをはめ込みます[移植]。45年隔たりのある、新/旧二つの時代様式・デザインを並列させました。玄関から続く曲面内側が2012年の世界で、その外側が当時のまま残された1967年の世界です。二つの世界の境界にはストリングカーテンを設置し、45年隔たりのある二つの世界を透けて見通すことができるようになっています。つまり、「45年世界の旅」です。

果たして、古いものには価値がないのか?新しければ価値があるのか?45年という隔たりのある新/旧二つの世界の空間が共鳴しあい、新しい価値を生みだした、リノベーションルームの完成です。

○ ”45年間”をデザインする

45年という時間をデザインで表現しようと思い、電線管を(写真ように)玄関から部屋の奥の窓際まで一本につながるようにし、五つの結節点を設け、球状のブラケット照明を取り付けました。結節点から次の結節点までが10年を表しています。玄関外の世界が2012年→玄関上部の照明が2,010年→00年→90年→80年→70年となり、窓際の1967年の世界につながっていきます。

■  古い建物の評価基準として、”ビンテージ的視点”の必要性

右肩上がりの時代は、「建物は時間が経過すればするほど価値は落ちてゆく」というのが一般常識でした。水平飛行に移行した、これからのビルストック時代の日本では、古い建物の価値を評価できる別の基準も必要ではないでしょうか?その一つが、「ビンテージ文化」です。 ビンテージ文化は、古いから価値が落るといった、一律に価値を決めてしまうことはなく、対象物の”質”を独自の感性で評価します。それだけに、評価基準を一般化するのは難しいところもあるのですが、他の分野の”ビンテージ”をみてみますと、まず、ある程度のベースとなる共通した評価基準があり、その上に、それぞれ独自の個別評価基準があるようなので、これらを参考にしながら建物に応用することも充分可能ではないかと思っています。古い建物の評価基準として”ビンテージ的視点”が必要ではないでしょうか?

■ 古いマンションの特徴

古いマンションでは、次のような特徴のある物件が数多く見られます。
 1,バルコニーがない → 問題点:洗濯物干場がない。エアコン室外機置場がない。
 2,室内に洗濯機置き場が無い → 室内の押入れを洗濯機置場に変更
 3,排水管が下抜き方式 → スラブ上、「床転がし方式」に変更
室内に、洗濯物干し場として、窓際にパンガーパイプを設置しています。
エアコン室外機は廊下に設置し、室内洗面室入口上部に三角形の箱を新たに作り、エアコンを取り付けました。

■ 設備配管について

○ 室内の排水方式の変更  「下抜き」→「床ころがし」

「山王マンション」では排水管は「下抜き」といい、自階のスラブを突き抜けて下階の部屋の天井裏に入り、横にふって共用の竪排水管に接続されています。そのような状態ですと、排水管をメンテする場合やリノベーションをする場合に、わざわざ関係のない他人が住んでいる下階の部屋に入り、天井裏に入り込んで作業をしなければいけません。そこで、リノベーションする部屋では、排水管を自階のスラブ上で新しく配管し直しています(「床ころがし」配管)。

○ 新設共用竪排水管  山王マンションを寿命まで100年使い続けるために

また、数年前、大規模改修時に、寿命が近づいている室内PS内の既存の竪排水管に変わり、工事・メンテがしやすい外部に「共用竪排水管」を新設してます。リノベーションした部屋の「床ころがし方式」の新設排水管は、外部に新設された、この共用竪排水管に接続します。
設備配管的にも、これから半世紀、合計100年、山王マンションを寿命まで使い続ける下地ができています。

詳しくはこちらをご覧ください。ブログ―「続・山王R」04:新設配管工事
http://www.nano-architects.com/blog/archives/5165

 

■ 掲載誌―国外のwebマガジン

>designboom / イタリア >ArchDiliy / アメリカ >Architizer / アメリカ

 

■ The Times Transplantation Building

Architects: nano Architects
Location: Fukuoka, Japan
Designer: Yasuhiro Shinano
Area: 48 sqm
Year: 2012
Photographs: Yasunori Hidaka


■ abstract
Sanno apartment was completed in 1967.Since 1967, this room has not been renovated.
This room has been renovated only after 45 years.
This room, which was completed in 1967, is a Japanese style.Resection of the part of the Japanese-style room, I transplanted the new style in 2012.Design concept is that the coexistence of two styles of different eras.My intention is to make the birth of the room with a new value.I believe that the use of Japanese-style room, which was completed in 1967, transplanted a new design, and can be given a new value in this room.



■ 「The Times Transplantation  Building」

Loss of value of the space left behind the times.
Cutting off a part of it and removed , trasplanted and compound a different times there.
There also seems to like a surgical operarion, but it is also like a plastic operation.
There are classified by 3parts of lifeline that is, first, "a drainage pipe, a service pipe, and a gas pipe" as vein, and "electric wire" as nerve, at last , that is "oil supply machines" as internal organs.
To displace the broken lifeline and transplant new items.

Space left behind the times in 1967.
Cutting an incision in the part of the interior that make up the surface like the skin.
The same way as the fresh air is brought through the open door, the world of 2012 is transplanted into the world of 1967.
It seemed as if value was lost in 1967 by remix of design effect that different times stand in line,  
new values like a new story were produced.
Paralleling of the world of 1967 and 2012, different times and design are born as combination of different times of the space.

< 英訳:Natsuki Maki >

 

“ザ タイムズ” トランスプランテーション ―  “時代” 移植

取り残された、ある時代の価値喪失空間。
その一部を切開、切除し、そこに異なる"時代"を移植し縫合する。
"血管"ともいえる「給水管・排水管・ガス管」、"神経"ともいえる「電線」、"臓器"ともいえる給湯器等の「住設機器」、傷んだこれらのものを"切除"し、新しい部材を"移植"、ライフラインを更新する。
それは、まるで、"外科手術"のようである。

時代から取り残された1967年空間。
皮膚のように表層を構成する内装の一部を切開し、切除する。
開いた扉から、新鮮な空気が入り込むように、2012年の世界が1967年の世界に入り込み移植される。
それは、まるで、"成形外科手術"のようである。

異なる時代の価値の並列による"デザインリミックス効果"により、価値が喪失したように見えていた1967年空間が、逆転、新しい"物語=価値"が生み出される。
1967年の世界と2012年の世界、異なる時代・デザイン・価値が並列する、"時代様式並列空間"の誕生である。

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